「こんな扉も無い所じゃあっという間に李厘ちゃんに見つかっちゃうよ!」
時間も無い事だし、あたしは遅い足を一生懸命動かしながらとにかく物置部屋から離れる事にした。
突き当りを曲がり更に直線を走っていると、突然角から人影が飛び出してきた。
それをさっと避けるなんて反射神経を持っていないあたしは思い切りその人にぶつかってしまった。
体格差があったのか、あたしは壁にぶつかり跳ね返るボールのように床に転がってしまった。
それでも前方不注意を詫びなければと思い頭を下げた。
「いたたっ・・・すみません、ちょっと急いでたもので・・・」
「いや、こっちこそ突然飛び出したりして、ワルかったな。」
ん?何処かで聞いた事のある声。
「おいおい、大丈夫か?」
尻餅をついて床にへたり込んでいるあたしの前に大きな手が差し出された。
左手にあるベランダらしき所から差し込む光でその人の姿があたしの眼にくっきり映し出された。
その人は・・・見紛うこと無き、悟浄が捜している・・・大切な人。
「爾燕・・・じゃなくて、独角ジ・・・」
「ん?何だぁ見ない顔だな。新米か?迷子にでもなったか?」
「いえ・・・」
状況を説明しようとした時、後ろの廊下から走ってくるような音が聞こえ咄嗟に目の前にいた独角ジの洋服を握り、必死で訴えた。
「李厘ちゃんとかくれんぼしてるの!お願い匿って!!」
「はぁぁ!?」
「あー独角ジ!こっちにおねぇちゃん来なかった?」
「何だ・・・マジでかくれんぼしてるのか・・・」
ぽりぽりと頭を掻いていると、目の前の李厘が苛立たしそうに地団太を踏む。
「ねぇねぇ、ちゃんこっちに来なかった!?」
「オレは見てねぇなぁ・・・友達か?」
「うん!今かくれんぼしてて李厘がオニなんだ!」
「そっか・・・まぁ頑張れよ。」
「見つけたら教えてね!さーて、オイラ本気で行くからね!!」
そう言うと李厘は物凄い勢いで先に進んで行った。
最後の台詞は殆どドップラー効果状態で本人がいないのに言葉だけが置いていかれたような状態だった。
何の物音も聞こえなくなった頃、独角ジは自分の背中にあるベランダへ通じる窓を開けるとその下で息を殺すように小さくなっていたあたしに声を掛けた。
「おーい・・・行ったぞ。」
「ど、どうもありがとうございました。」
進む